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税務訴訟を提起するにあたって

はじめに

納税者が国の課税処分に不服がある場合、まずは再調査請求及び審査請求を通じて不服を申し立てたうえ、それでも判断が覆らない場合には、裁判所に課税処分の取消等を求める行政訴訟、すなわち税務訴訟を提起することになります。

このコラムでは、税務訴訟の流れ及び納税者の立場で税務訴訟の提起を検討するにあたって留意すべき事項についてお話させていただきます。

 

税務訴訟の流れ

 不服申立てに関するコラムでも言及されていますが、税務訴訟(課税処分の取消訴訟)を提起する場合には、原則として国税不服審判所に対する審査請求を経る必要があります。納税者は、国税不服審判所の裁決を経た場合、裁決書受領から6か月以内に訴訟を提起する必要があります。

 税務訴訟の一般的な流れとしては、納税者が訴状を提出した後、国側との主張によるやりとりを経て争点を整理し、必要に応じて関係当事者の尋問等を行った上で、最終的に裁判所の判決を受けることになります。

 平成30年の裁判所の統計データでは、税務訴訟を含む行政訴訟の審理期間の平均は、第一審で14か月程度、控訴審で6か月程度及び上告審で3か月程度となっています。

 なお、国税庁が公表した令和元年6月「平成30年における訴訟の概要」によれば、平成21年度から平成30年度までの10年間における税務訴訟の納税者勝訴率は3.4%~13.4%となっており、勝訴率が高いとは言い難い状況ですが、一方で、企業に対する巨額課税事案を例にとれば、IBM事件(東京高判平成27年3月25日。その後上告不受理により確定)、塩野義製薬事件(東京地裁令和2年3月11日)及びユニバーサルミュージック事件(東京高判令和2年6月24日)のような納税者勝訴の判決も目につきます。

 

税務訴訟の提起を検討する場合の留意点

 まず、第一に留意すべきは、先立つ税務調査段階において適切に対応したかどうかが税務訴訟の勝敗を決しうるということです。

 すなわち、税務訴訟の争点としては、大別して、課税の前提となる事実関係の争い及び税法の解釈に関する争いがありますが、多くの税務訴訟では前者の事実関係に関する争いにより勝敗が決しています。この点に関し、課税当局側は、実は税務調査の段階で事実認定に必要な資料の大部分を収集しており、その中には納税者又はその関係者からの説明も含まれています。また、税務訴訟においては当初の主張等の構成が勝敗の分かれ目になる場合が多くありますので、税務訴訟提起前の不服申立ての段階から税務訴訟でどのような主張を展開するのか念頭に置いて戦っていく必要があります。これらを踏まえると、納税者として、税務訴訟を視野に入れるのであれば、税務調査・不服申立ての段階から税務訴訟を意識した対応を行うことが重要になります。

 もう一点重要なのは、税務訴訟を戦うには、事務的・時間的・経済的負担が伴いますので、当該案件が税務訴訟の提起に値するか、値するとしてどのような主張で戦うべきか、事前に十分に精査する必要があるということです。特に、税務訴訟を判断するのは裁判官という法曹資格者ですので、過去の判例・裁判例に照らして裁判官を説得できるかという観点が重要であり、その意味では税務の専門家である税理士のみでなく、法曹である弁護士、特に税務に精通した弁護士の視点からみた分析が非常に重要になります。

 もしご自身が納税者の立場でどうしても課税当局の言い分に納得がいかない場合には、顧問税理士だけでなく、税務に精通した弁護士にも相談していただくことをお勧めします。

以 上

(執筆: 下尾 裕)

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