1 はじめに
所得税,法人税といった税は,国に納める税ですが,それ以外に,地方自治体に納める地方税があります。
地方税の中では,特に,土地や建物等を所有している場合に課される固定資産税がよく問題になります。
このコラムでは,私(弁護士中村和洋)が過去に担当した,固定資産税課税処分の有効性を争った事案を紹介します。
2 事案の概要
不動産業を営む甲社は,大阪市内の一定の範囲の土地について都市計画法に基づく開発許可を大阪市から受けました。
その際,大阪市は許可を与える条件として,土地の一部を公園と緑地とし,公園と緑地には住宅を建設することを禁止しました。
その後,甲社は開発行為を行い,101戸の分譲住宅が完成しました。
甲社が所有する公園及び緑地(合計約400平米)について,甲社から大阪市に寄付の申出をしましたが,それは拒否されました。
他方で,大阪市は,総務大臣の定める固定資産税評価基準と,大阪市の定める固定資産評価実施要領に基づいて,この公園と緑地について,雑種地として近隣の宅地と同様の評価(坪単価30万円~40万円程度)をしました。
その結果,土地の評価額は合計約4800万円もの高額な評価となり,年額約55万円の固定資産税及び都市計画税が課されたものです。
これに対して,甲社は,大阪市を被告として,固定資産税等の租税債務の不存在の確認を求める訴訟を提起したのです。
3 判決の概要
判決(大阪地裁平成24年2月10日判決・ウエストロージャパン掲載)では,以下のような理由で,納税者である甲社の主張が認められました。
「本件各土地には建築物を建築できず,公園及び緑地として利用しなければならない制限が存在する。
その上,本件各土地を公園及び緑地として維持管理する費用の負担等も考慮すると,近傍の宅地と同等の条件で本件各土地の取引が成立するとは考えられない。
したがって,本件各土地については,取引価格が存在しないか,取引価格を想定するとしても極めて低廉なものにとどまるというべきである。
よって,本件各土地の登録価格の決定には重大かつ明白な瑕疵があって無効であるから,同決定に基づいてされた本件各賦課処分も無効である。」
4 解説
固定資産税は,土地や建物といった固定資産の価格に一定の割合で税が課されます。
そして,この価格とは,「適正な時価」をいいます(地方税法341条5号)。
この「適正な時価」は,総務大臣が告示した固定資産税評価基準によって,市町村長が決定します(地方税法388条1項,403条1項)。
ただし,評価額が実際の土地の時価を上回るときには,固定資産税の価格の決定は違法となるというのが判例です(最高裁平成15年6月26日)。
本判例で特に注目すべき点は,課税処分の無効を認めたという点です。
固定資産税については,評価基準だけでなく,各自治体で実施要領等が定められている場合もありますが,本件の公園又は緑地のように必ずしも具体的な評価方法が定められていないこともあります。
その場合,各自治体は基準がないことを理由に,個別に補正はせずに,現行の基準を無理に当てはめることがあるので,注意が必要です。
なお,本件については,結局,大阪市は控訴せず,平成24年4月1日に固定資産税の評価方法を改めて,都市計画法の開発行為に伴い設置される公園,緑地については,付近の土地の価額の10分の1に相当する価額とするとして,実施要領を変更しました。
以上
(執筆:中村 和洋)