事務所の垣根を越え、専門知識、情報、経験、コネクションを集約してより的確でスピーディーな解決策を提供します。

SCROLL

外国の組織体の外国法人該当性

1 外国の法令によって組成された組織体と「外国法人」

近年、大企業のみならず中小企業や個人事業主においても経済社会活動がグローバル化しており、日本法人あるいは日本の居住者が、外国において何らかの活動をするために外国において組織を設立し、あるいは出資をするなど、外国における組織体も組成に関与することは稀ではなくなりました。

ところで、所得税法上あるいは法人税法においては、内国法人は「国内に本店又は主たる事務所を有する法人」、外国法人は「内国法人以外の法人」と定義づけられているところ(所得税法2条1項6号、7号、法人税法2条3号、4号)、「法人」を積極的に定義づけた規定はありません。日本の法令に基づいて組成された組織体であれば、それが法人に該当するか否かを判断するのは容易でしょうが、外国の組織体については、その法的地位や組成のための手続等はその国の法令によってまちまちであり、それが日本の租税法上の「法人」に該当し、ひいては「外国法人」に該当するか否かを判断することは必ずしも容易ではありません。

外国法人に該当すると、日本の法人税法上は独立した課税主体として認められることとなりますが、課税の対象となる所得は国内源泉所得に限定されます。一方で、これが外国法人に該当しない場合には、その組織体が稼得した所得が、設立者や出資者などの構成員の所得として認識される可能性があります(いわゆる「パス・スルー課税」)。組成した組織体が外国法人に該当するか否かは、タックスプランニングを図る上でも重要な事項といえます。

外国の組織体が日本の租税法上の法人に該当するか否かの判断基準については、学説上、外国事業体の設立準拠法国(地域)の法令により当該事業体に法人格を付与されているか否かを検討すべきとする見解(外国私法基準説)、我が国の私法において法人がいかなる属性を有するとされているかを検討した上で当該外国事業体がそのような属性を有するかにより法人該当性を判断すべきとする見解(内国私法基準説)などの見解が唱えられていました。

 

2 最高裁判所平成27年7 月17日判決が示した基準

最高裁判所平成27年7月17日判決(以下、「本判決」といいます)は、外国の組織体が日本の租税法上の法人に該当するか否かという点に関して、一定の判断基準を示しました。

この事案は、米国デラウェア州の法律に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップ(LPS)が行う中古集合住宅の賃貸事業に係る投資事業に出資した投資家らが、当該賃貸事業により生じた所得が同人らの不動産所得に該当するとして、その所得の金額の計算上生じた損失の金額を同人らの他の所得の金額と損益通算することの可否が争われた事案であり、その争点を判断する前提として、このLPSが日本の租税法上の法人に該当するか否かが問題とされました。

判示は、外国法に基づいて設立された組織体が外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては、まず「①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否か」を検討し、これができない場合には、次に、「②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否か」という点を検討する、という判断基準を示しました。

 

3 法令の各条項の検討

その上で、本判決は、まず、州法において、LPSが「separate legal entity」となるものと定められていることによっては、LPSに日本法上の法人に相当する法的地位が付与されているか否かを疑義のない程度に明白であるとすることは困難であると判示して、上記①の基準によっては、LPSが日本の租税法上の法人に該当すると判断することはできないとしました。

 その上で、上記②の基準に関し、本判決はさらに州法の規定を緻密に検討し、同法が、LPSにつき、営利目的か否かを問わず、一定の例外を除き、いかなる合法的な事業、目的又は活動をも実施することができる旨を定めるとともに、同法若しくはその他の法律又は当該LPSのLPS契約により付与された全ての権限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限を保有し、それを行使することができる旨を定めていることから、同法は、LPSにその名義で法律行為をする権利又は権限を付与するとともに、LPS名義でされた法律行為の効果がLPS自身に帰属することを前提とするものと解されるとし、さらに、このことは、同法において、LPS持分がそれ自体として人的財産と称される財産権の一類型であるとされ、かつ、構成員であるパートナーが特定のLPSについて持分を有しないとされていることとも整合するなどと指摘した上で、LPSは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果がLPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められるとして、LPSが外国法人に該当すると判断しました。

 

4 本判決の与える影響

本判決は、最高裁判所が初めて外国事業体が日本の租税法上の法人(外国法人)に該当するか否かに係る判断基準を示したものであり、今後の課税実務に与える影響は大きいものと考えられます。本判決は、あくまで、デラウェア州法に基づいて設立されたLPSの法人該当性が問題となった事案であり、諸外国の多数の事業体の一つについて、その法人該当性について判断を示した一事例ではありますが、今後、諸外国の法令に基づいて設立されたLPSやLLPなどといった事業体の法人該当性が問題となった場合における判断の参考になるものと考えられます。

(執筆:元氏成保)

2024年12月
« 5月    
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031