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意見書

1 はじめに

  税務訴訟では,学者の意見書を裁判の証拠として提出する場合があります。

  通常の民事裁判では,あまり学者の意見書を提出することはないので,これは税務訴訟の特色といえます。

  税法は司法試験の選択科目ではありますが,選択する受験生が少ないこと,また,経済学,財政学,会計学などの知識も必要とされる上,毎年のように改正が行われることから,裁判官や弁護士といった法律の専門家であっても,税法について通暁している人は必ずしも多いとはいえません。

 このように税法については,専門性が強く,日々新たな問題が生じているため,裁判官が税法の解釈を判断するにあたっては,専門的な学者の意見を尊重する場合が,他の法律に比べて多いように感じます。

 私(弁護士中村和洋)は,過去に訟務検事として,国側の代理人で税務訴訟を担当していましたが,その中でも,それまで議論となったことのない税法の解釈上の問題が生じている事件は少なからずあり,国側,納税者側双方から,税法学者の意見書が裁判の証拠として提出され,それら意見書が判決に影響を与えたこともありました。

 このコラムでは,私が弁護士になってから担当した「はずれ馬券の購入費が必要経費として認められた事件」を例に,裁判における学者の意見書の取り扱いについて説明します。

 

2 納税者側の意見書

 事案は,独自の競馬予想システムを考案した納税者が,数年間にわたり恒常的に,馬券で多額の利益を得たものの,国税当局がはずれ馬券の購入費を必要経費と認めなかったため,実際に得た利益の数倍の金額の課税がなされたというものです。

 この納税者は確定申告をしていなかったので,無申告の罪に問われ,刑事裁判にもなってしまいました。

 馬券の払戻金による所得は,通達では「一時所得」と定められ,それは税法の解釈上,疑いのない常識として定着していました。

  この事案のように,恒常的に馬券で所得を得る人がいることは想定されていなかったのですが,インターネット投票やコンピューターの発達,また,天才ともいうべき人物の独自の発想力の結果,競馬で利益を得ることが可能となったのです。

  ただ,実際に儲かった以上の課税がなされるというのはいくらなんでも非常識であり,新たな法解釈を打ち立てる必要がありました。

 そこでツテを頼って,所得税法の注釈書も書かれている高名な税法学者の先生に,意見書の作成をお願いすることにしました。

その意見書では,所得税法の沿革等を詳しく分析された上で,長期間にわたり恒常的に利益を産み出しているような場合には,「営利目的での継続的行為」による所得であるから,雑所得に該当し,1年間のトータルの利益に課税がなされるべき(つまり外れ馬券も必要経費となる。)との,説得力のある見解が記されていました。

 

3 国側の意見書

 以上の意見書に対して,一審(大阪地方裁判所)の審理では,検察官は,学者の意見書は提出せずに,国税庁の担当部署が法的な見解を記した書面を提出しました。

しかし,国税庁は一方当時者であり,裁判所から客観的な意見と評価されるはずはありません。

検察庁や国税庁は,「はずれ馬券が必要経費になるわけがない。」との旧来の常識にとらわれて,法解釈を改めて緻密に検討すべき必要性に気が付いていなかったものと思われます。

結果,一審判決では,納税者側の主張が入れられました。

検察官は控訴をし,遅ればせながら控訴審の段階で,租税法の大部な教科書を執筆されている,著名な税法学者による意見書を提出しました。

その意見書では,はずれ馬券は配当には結びついていないから必要経費にはなり得ないとの見解が示されていました。

しかし,その意見書には,「はずれ馬券を必要経費と認めると常習賭博の要因となる」といったような,公営競馬に対する偏見ともいえる意見も記載されていました。

また,検事や国税庁の担当者が,その学者に対して納税者の構築したシステムをうまく説明できていなかったためか,「はずれ馬券は何枚でも拾い集めることができるから把握が困難である。」という記載もなされていました。

しかし,納税者の使用していた競馬予想ソフトには購入履歴が完全に残されていましたので,これは的外れな指摘でした。

その後の控訴審,また最高裁判決でも納税者が勝訴しましたが,その理由は,納税者側が,租税法学者の意見書を参考にしつつ,早期に説得力のある主張を組み立てることができたことにあると思います。

国側の敗因は,理論的な主張の組み立てに出遅れがあり,また,後に提出した税法学者の意見書も,時間がなかったためか,検討が十分とはいえなかったことにあると思います。

 

4 まとめ

 税務訴訟でも,論点は様々あり,事実認定が問題となっているような場合には,通常の裁判と同じく,証拠に基づく具体的な主張,立証が必要です。

 しかし,それまで問題となったことのない新しい税法上の解釈の問題が生じた場合には,時に税法学者の意見書を提出することが有益な場合があります。

 税法学者の方は研究や教育に忙しいため,簡単には意見書の作成に応じてくれません。

そこで,色々な税法学者の方と知り合っておくなど,人脈の構築の必要性を改めて感じた事件でした。

以上

(執筆: 中村 和洋

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